『知恵伊豆に聞け』
『知恵伊豆に聞け』
中村彰彦 著 実業之日本社
2003年7月25日初版第1刷 刊
将軍 家光・家綱に仕えた松平信綱を主人公にした歴史小説です。
政治の舞台やそのほか、いろいろなところで「人間とは思われない」と言われるほどの知恵を発揮した人物ですが、爆発的に人口がふえつつある江戸の水を確保するため玉川上水を掘削することを提案し、あわせて陸稲は作れても水田耕作が出来ない地域であった自らの領地、川越藩にもその水を引くことの許可を得て(野火止用水)、ついに完工させ、水が流れてきたときの喜びの場面が印象に残りました。
・・・ 信綱は、急ぎ下馬すると足元が泥だらけになるのもかまわず手近の野火止用水の堤に駆けあがった。なおも稲光が明滅するなか、上流に向けられたその双眸に映ったものこそ、泡立ちながら磯に打ち寄せる波のごとく流れこんでくる水のかたまりであった。堀の底まに溜まっていた枯れ草や棒切れまで呑みこみ、細いながらに津波のような勢いで迫ってきた流れには、鮎も混じっていて時折手裏剣のように銀鱗を光らせる。
後に、この野火止用水は「伊豆殿堀」と呼ばれるようになったそうです。
今も、貴重な働きをしている玉川上水 ・・・ この掘削工事が開始されたのが1653年のことだそうです。
慶安事件・・・由井正雪の乱・・・に敏速に対応した後、江戸の牢人を追い払っても各地にちらして困窮させるだけだと考えて、再就職の道を開き、積極的に雇用するなど松平信綱や、先日ご紹介した保科正之、酒井忠勝、阿部豊後守などが合議制で打ち出した政策の見事さ。現代のよい見本たりうるのではないかと感心しながら読み終えたところです。
千里の道も、まず一歩から。今日がよきスタートの日となりますように。
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