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2010年8月16日 (月)

トーベ・ヤンソン

 あのムーミンシリーズの作者、トーベ・ヤンソンさんの自伝的な面を含んでいる二冊の本を読みました。

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『彫刻家の娘』 訳者 冨原眞弓1991年11月11日 第一刷 発行

『ソフィアの夏』 

訳者 渡部 翠

1993年11月15日 第一刷発行

 出版社はいずれも、講談社です。

  『彫刻家の娘』には、幼い頃からのヤンソンと家族の写真が掲載され、彫刻家であったお父さんがかわいがっていた猿のポポリーノの写真もあります。

主人公の女の子は(トーベ・ヤンソン自身なのですが、自伝的小説となっていますので)しあわせな子ども時代を送ります。たとえば、こんな文章が「暗闇」という章にあります。

 丸太に火がつくと、ママとわたしは火のそばに大きないすをよせ、アトリエの灯を消す。ママがお話をはじめる。

 「むかしむかし、たいそうかわいい女の子がいました。その子のママは女の子をとってもかわいがっていました・・・・・・」 どのお話の始まりもこうでなければならない。そのあとは適当でいい。あたたかい暗闇にゆったりとやさしい声がひびき、わたしは炎を見つめる。こわいものなんかない。ほかのものはみんなアトリエの外におしやられ、中には入ってこられない。いまだけでなく、これからもずっとだ。

 うーん、幸せな子ども時代ってこういうものだという気がしてきますね。

 この女の子よりひとつ年上で、一年のうちの六日間だけ、おない年になるアルベルトという少年が登場する「アルベルト」の章も魅力的です。

 この少年は、少女に強引に言い張られてしかたなく漕ぎ進んだボートが濃い霧におしよせられて困ったことになっても、「だから言ったじゃないか」などと少女を責めたりせず、何とか窮地から脱しようとするのです。

 アルベルトはいつでもちゃんと始末をつける。なにが起こっても、人がどういう態度をとっても、ちゃんと始末するのはアルベルトなのだ。

 うーん、凛凛しいアルベルトを少しは見習いたいと思います。

 もう一冊の『少女ソフィアの夏』はトーベさんの弟のラルスさんの娘とそのおばあさん・・・つまり、トーベさんのお母さんをモデルにして書かれています。フィンランドの多島海域の小島を舞台とするこの本を作者自身「わたしの書いたもののなかで、もっとも美しい作品」と訳者に語ったそうです。

 フィンランドでガールスカウトを初めて組織したおばあさんは、孫娘が外でテントに寝ることになったとき、自分が初めてテントで寝たとき、どんなだったろうと思いだそうと努めます。でも、悲しいことになかなか思い出せないでいると、外にいることが心細くなった孫娘が(その心細さを気付かれないように気をつけながら)入ってきます。おばあさんは孫娘との会話を通して幼かった自分のその日が思い出されてくる、というような描写がなされています。

 「夏至祭」という章に登場するエーリクソンという小柄で頑丈な老人について、こんなことが書かれているのが印象的でした。

 彼のことを話したり考えたりするときには、目をあげて、遠く海のかなたをながめやるのが、いちばん自然な気がするのだった。 ・・・ エーリクソンは、さまざまな夢をかなえる人だった。でも、自分のためには、なにを見つけていたのだろう。それは、だれもほとんど知らないのだが、みんなが思っているよりずっと少ないにちがいなかった。それでもエーリクソンは、夢さがしをやめなかった。きっと、さがすことそのものが楽しみだったのだろう。

 こうした筆の運び、魅力がありますね。

 ほかには、ユリカモメ島に別荘を建ったときの章「おとなりさん」が興味深く思えました。

 見慣れた水平線の空を大きな角ばった別荘が深くえぐってしまったばかりか、『私有地 上陸禁止』と立て札を立てた社長さんに立腹したおばあさんは、ソフィアとその島に上陸し、果敢に挑戦を始めます。

 そこへ、おりあしく、それまで一度も現れなかった社長さんたちがやってきて、二人のボートも見つけられてしまいます。 さて・・・この先は、読んでのお楽しみ。 (人の悪い書き方をしてすみません。)

 また、こんな二人がよそよそしくなり、相手をさけ、ほとんど憎みあっているような感じになってしまったときのことも書かれています。

 ある晩のこと、ソフィアが手紙を書いて、ドアの下からすべり込ませた。手紙には、こう書いてあった。

『わたしは、あなたに腹をたてています。敬具。ソフィア』

一つのまちがいもなく書かれていた

 ・・・ こういう文章の書けるトーベ・ヤンソンさんがムーミンシリーズの作者のなのです。

 というわけで(どういうわけでしょう)、いよいよ8冊あるムーミンたちの世界を訪れようとしている私、ムーミンパパのシルエットなのでした。

 引用が長くなりましたのに、そしていじわるなところもありましたのにここまでお読みくださって、ありがとうございます。

 さて、今日も、よい日となりますように。

 

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