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2013年4月19日 (金)

『 江戸前浮世気質 おちゃっぴい』 宇江佐真理

Photo『江戸前浮世気質 おちゃっぴい』 

宇江佐真理 著 徳間書店 1999年 第一刷

 六つの短編が収められています。長編にしても短編にしても、読んで後味のよいのが宇江佐真理さんの作品の良さだと思います。

 本のタイトルになっている「おちゃっぴい」から一部を引用させていただきます。札差の娘お吉は、手代との結婚話をいきなり親が持ち出したのに腹を立て、家を飛び出してしまいます。ひょんなことで、若い絵師、菊川英泉に出会い、彼の尊敬する北斎の創作現場までついていったときの場面です。北斎の娘、お栄もその場面にいます。 

 「うまいなあ」 お吉は思わず感嘆の声を上げた。英泉は振り返って、にやりと笑った。お栄も北斎の機嫌を取るように「お父っつあん、嬉しいねえ。この娘さん、うまいんだとさ」と言った。

 「そうか、おれァ、うまいか?」 北斎は無邪気に喜んでいる。「やっぱり、本物の北斎なんだね。あたい、こんな豪勢な絵を見たの初めてだよ」 

 北斎は絵筆を置いて、たった今、でき上がったばかりの己れの絵にしばし見入った。  しかし、次の瞬間、北斎は見事な絵が描かれている画仙紙をくしゃくしゃと丸め、無造作に庭に向けて放り投げた。

 「何するんだよ。もったいないじゃないか」 お吉は北斎の禿げ頭に気色ばんだ声を上げた。

 「いいんだよ、放っておおき」 お栄がいなした。

「どうしてさ、あたいがうまいと言ったのが気に入らないのか? やい、北斎爺ィ!」

「ほ、気の強い娘っ子だ」 北斎はそう言ったが、別に腹を立てた様子でもない。

 英泉が目線でやめろとお吉を制した。

「お前ェがうまいと褒めてくれたからよ。今度ァ、もっとうまく描こうと思ってな」

北斎の言葉にお吉は言葉を失っていた。頭をガンと殴られたような気持ちになった。 

 いかがでしょうか。お気に召しましたら、どうぞ。 

 今日も、よい日となりますように。

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