『歌声が心に響くとき 音楽療法との出合い』
久保田牧子 著
悠飛社 2002年3月20日 初版第1刷発行
後書きを含めて150ページという量で、読みやすく、そして、深い内容です。
「自閉症と音楽」というところから、引用・紹介させていただきますのは、5歳のCくん、自閉症の子との歩みの例です。ご両親は、彼の障害を周囲の人に隠していました。妹が生まれてから、Cくんの問題行動・・・自分の中にある欲求をうまく表現することの出来ないときに乱暴な行為をする・・・はエスカレートしたそうです。
・・・ある日お誕生会を兼ねた音楽療法をやったときのことです。その日は音楽として「ハッピーバースデイ」の歌を使いながら、特別にショートケーキを食べることにしました。C君の食べ方はやはり傍若無人のひどいものでした。私はクリームで服をべたべたにされながら必死で彼と向き合って、食べ方を教えようと奮闘しました。
その時突然、お母さんの表情が変わったのです。そして「やっと気がつきました」とひとこと、涙声でおっしゃったのです。
その時にはその意味を問う余裕はなかった私ですが、翌週、お母さんの服装がそれまでと一変していたのです。ジーパンとトレーナーという初めて見るスタイルでした。
それまではいつもこぎれいなスーツなどになさっていて、C君が暴れていても「だめよ」と口でいうだけでした。その服装では目まぐるしく変わる障害を持つ子どもの動きについていけなかったと思うのです。服が変わったこの日を境に明らかにお母さんの動きはすばやくなり、C君としっかり向きあい、四つに組んで受け止める姿勢が見えてきたのです。
このあと、お父さんも大きく変容してきたC君が音楽療法に参加している姿を見にくるようになり、周囲の方にもC君の障害のことを隠さずに話せるようになったそうです。
ことばを使わなかったC君が「あっぴ」と声を出し、著者は、それを「ハッピーバースデイ」の歌のことだと考えて歌ったことから、呼びかけると「アーイ」と返事をし、妹を「アワイイ(可愛い)、アワイイ」とかわいがることができるお兄さんに育っていったそうです。
ここまで読んでくださって、私と同じように、あの映画、「奇跡の人」・・・ヘレン・ケラーとサリヴァン先生との出会いを思い浮かべているかたがおられるのではないかと思います。 そうなのです。音楽の力を助けとしながら相手に寄り添って新しい地平を拓いていくのが音楽療法なのだと教えられた箇所です。
うーん、この著者の域には到達するのは容易ではありませんけれど、音楽療法は、それだけに打ち込み甲斐のある道なのだと思います。
今日も、新しい世界の片鱗なりと展望できる日となりますように。
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