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2016年8月17日 (水)

詩 「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」 石垣りん

  この詩は、中学校の国語の教科書に掲載されていたことがあります。その関係で、作者の石垣りんさんが岐阜市に来てくださって、自作の詩を朗読していただいたことを懐かしく思い出します。心地よい、澄んだお声でした。

  現在は、調理器具や設備も進歩し、炊事・クッキングに携わるのは、必ずしも女性だけではなくなりましたが、この詩の心は引き継がれていることと思います。

石垣りん

「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」


それは長い間 私たち女のまえに
いつも置かれてあったもの、
自分の力にかなう
ほどよい大きさの鍋や
お米がぷつぷつとふくらんで
光り出すに都合のいい釜や
却初からうけつがれた火のほてりの前には
母や、祖母や、またその母たちがいつも居た。
その人たちは どれほどの愛や誠実の分量を
これらの器物にそそぎ入れたことだろう、
ある時はそれが赤いにんじんだったり
くろい昆布だったり たたきつぶされた魚だったり
台所では いつも正確に朝昼晩への用意がなされ
用意のまえにはいつも幾たりかの
あたたかい膝や手が並んでいた。
ああその並ぶべきいくたりかの人がなくて
どうして女がいそいそと炊事など 繰り返せたろう?
それはたゆみないいつくしみ
無意識なまでに日常化した奉仕の姿。
炊事が奇しくも分けられた
女の役目であったのは
不幸なこととは思われない、
そのために知識や、世間での地位が
たちおくれたとしても おそくはない
私たちの前にあるものは
鍋とお釜と、燃える火と
それらなつかしい器物の前で
お芋や、肉を料理するように
深い思いをこめて
政治や経済や文学も勉強しよう、
それはおごりや栄達のためでなく、 全部が
人間のために供せられるように
全部が愛情の対象あって励むように。

  ◇     □     ○   ※   ☆

 NHKの朝のドラマ「とと姉ちゃん」のテーマにもつながるような、いろいろなことへの広がりが感じられますね。

 今日も、よい日となりますように。

 今日も、よい日となりますように。

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