« 新しいぶどう酒は 新しい皮袋に | トップページ | 『友ありき 与謝蕪村』  渡辺 洋 著 »

2016年11月25日 (金)

『火花』 又吉直樹さん

 昨年の芥川賞受賞作品を、今週、読みました。図書館で、『文藝春秋』2015年9月特別号を借りることができたからです。この号そのものが「芥川賞発表 受賞作全文掲載」となっていて、選評や、受賞した又吉さんのことばも掲載されていました。第153回平成27年度上半期芥川賞 正賞 時計 副賞 100万円 とのこと。

 私の心に響いてきた『火花』のフィナーレ近くの文章を紹介させていただきます。 状況が伝わるように少し長めですので、ご存じの方には、すみません。熱海での花火大会の場面です。

  ◇   □   ○   ※  ☆

 花火が打ち上がる度に拍手と歓声が響き渡る。場内アナウンスで、大手のスポンサー名が読み上げられ、素晴らしく壮大な花火が冬の夜空に咲く。海岸に降りて観ていた僕達は大いに楽しんだ。熱海では夏場に限らず、一年を通して何度か花火大会があるらしい。次々と企業の名が告げられ大きな花火が上がる。一際壮大な花火が打ち上がり歓声が巻き起こったあと、しばらく間があり、観客達は夜空から白い煙が垂れてくるのを、ぼんやりと眺めていた。すると、スポンサー名を読み上げる時よりも、少しだけ明るい声の場内アナウンスが、「ちえちゃん、いつもありがとう。結婚しよう」とメッセージを告げた。誰もが息を呑んだ。

 次の瞬間、夜空に打ち上げられた花火は、御世辞にも派手とは言えず、とても地味な印象だった。その余りにも露骨な企業と個人の資金力の差を目の当たりにして、思わず僕は笑ってしまった。馬鹿にした訳ではない。支払った代価に「想い」が反映されないという、世界の圧倒的な無情さに対して笑ったのだ。しかし、次の瞬間、僕達の耳に聞こえてきたのは、今までとは比較にならないほどの万雷の拍手と歓声だった。それは、花火の音を凌駕する程のものだった。群衆が二人を祝福するため、恥をかかせないために力を結集させたのだ。神谷さんも僕も冷えた手の平が真っ赤になるまで、激しく拍手をした。

 「これが、人間やで」と神谷さんはつぶやいた。

    ◇   □   ○   ※  ☆

  神谷さんというのは、10年前、この熱海での花火大会のおりに出会って、主人公がお笑いの道の師匠と心に決めた人です。

 この場面、文学って、こういうところが  ・・・ 人間、そして人生って、いいこと・いい時ばかりではない、でも、やっぱりいいものなんだと感じさせてくれるところがあるところがいいんだな と思わせてくれ、心に響いてきました。

 今日も、よい日となりますように。

|

« 新しいぶどう酒は 新しい皮袋に | トップページ | 『友ありき 与謝蕪村』  渡辺 洋 著 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『火花』 又吉直樹さん:

« 新しいぶどう酒は 新しい皮袋に | トップページ | 『友ありき 与謝蕪村』  渡辺 洋 著 »