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2018年7月18日 (水)

『孤蓬のひと』 (こほうのひと)

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『孤蓬のひと』 (こほうのひと)

葉室  麟  著

2016年9月30日 初版発行

  小堀遠州(こぼり えんしゅう) という人の名を 天下に名の知れた名園を訪れたときに よく聞いたり 耳にしたりしたように 思います。

 この本の主人公はその小堀遠州であることが、図書館で借りて読み始めてから分かりました。

 小堀遠州は、大名 藤堂高虎の娘婿で、古田織部に師事して茶道を深く学んだ人であったそうです。

 生まれは近江国 ・・・ 小堀家は、もともと浅井氏に仕えていて、その後、秀吉に仕え、秀吉の弟秀長の家臣となったとのこと。

 いろいろなところの作事奉行を務め、建築と造園に才能を発揮するようになったそうです。 

 長く携わってきた茶道の心を生かして、世の中の静謐(せいひつ)を願って、公武合体の使命を帯びて将軍秀忠の娘和子が後水尾天皇の女御として入内するとき女御御殿の大事な部分を作る普請奉行を務めました。

  その普請が完成したときの和子との対面のところが印象に残りましたので、引用させていただきます。

  ◇   □    ○   ※  ☆

 和子は庭に目をやった。林泉がととのい、庭石があたかも百年前からそこにあるようにどっしりと静まり、趣深く据えられている。

 庭を眺めるほどに、和子はなぜか懐かしい気がしてきた。庭を眺めているのではなく、庭から温かく見守られている。そんな気がした。 和子は広縁に進み出て、遠州と賢庭に「良き御所、良き庭じゃ。なにやら来たるべき場所に来たと思えます。丹精して造ってくれたことがわかります。大義であった」と声をかけた。

・・・ 直答(じきとう)を許します。普請奉行は、どのような思いを持って、この屋敷を造りましたか」

「茶の心でございます」

「茶の心とは?」

遠州は きっぱりと答えた。

「われも生き、かれも生き、ともにいのちをいつくしみ、生きようとする心でございます」

「われも生き、かれも生き、とはおのれひとりだけが生きるということではないのですね」

「さようでございます。幕府も朝廷もまた然(しか)りでございます。ともに生きてこその栄えかと存じます」

「そのために、わたくしがはるばる参ったのですね」

和子の言葉に遠州は応えず、ただ深々と頭を下げるだけだった。

御所の庇(ひさし)の下をひらりと燕が飛んだ     

  ◇   □    ○   ※  ☆

 名文だと思いました。

 本書の題は、小堀遠州が京の龍光院に建て、後に大徳寺に移設した孤蓬庵にちなんで付けられたようです。

  物語の結び近く、遠州は語ります。

「わたしは、川を進む一艘(いっそう)の蓬舟(とまぶね)であったと思う。・・・されど、孤舟(こしゅう)ではなかったぞ-」「ひとはひとりでは生きられぬ」

 本を読むと、いろいろな時代のいろいろな人物、その生き方と出会うことができるのが、嬉しく、楽しみです。

 今日も、よい日となりますように。

  ※ この本を読み終わって、少し付け加えたくなりました。よろしければ、「続きを読む「をクリックしてください。

 伊達政宗と小堀遠州が茶席で交わす会話が終盤にあります。その場面で正宗が語る言葉が遠州の胸に染みます。

  ◇    □    ○  ※  ☆

 「利休殿と織部の茶にあって、お主(遠州)に無いのは、罪業の深さだ。茶はおのれの罪の深さを知って許されることを願い、また、ひとを許すことを誓って飲むものだ。おのれに罪なしと悟り澄ました顔で飲むのは、茶ではない」

      ◇    □    ○  ※  ☆

 もう一箇所、松平信綱に遠州が語る 茶の心 を引用させていただきます。

「怨(うら)みを鎮めるのに恩をもってあたるのが政(まつりごと)ではなかろうか、と存じます。そして、この心は茶の湯にも通じると思うております。・・・茶の湯の席で申せば、上様は亭主であり、百姓、町民ら民は客でございます」

 信綱は目を瞠った。「なんと、民は上様の客であると言われるのか」

「茶席に、身分上下のへだてはございませぬ。でありますならば、この世に生きる者として、たとえ武士であれ、百姓、町人であれ、茶を喫するために茶席に集いし者にございます。ならば、この世の政を行う上様が亭主、民は客でありましょう。そして茶の心は亭主が客の心を豊かにするため、懸命に努めるところにあるのではないかと存じます。 ・・・ われらは亭主の務めを助ける役を仰せつかっております。されば、民を慈しみ、安寧たらしめることがわれらのなすべきことかと存じます」

  ◇    □    ○  ※  ☆

 こういうところが、葉室 麟さんの作品が多くの人に読まれ、愛される由縁なのではないかと、感動いたしました。

  ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

  今日も、よい日となりますように。

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